第二位 『らくえん〜あいかわらずのぼく。〜の場合』(TerraLunar)

今作のキーワードは「苦笑」です。とにかく序盤は笑いました。ヲタにしかわからないネタが満載で、それがわかってしまう自分に笑いました。
「エロゲ製作」が舞台である時点で、この作品は外界から閉じられるに決まっているはずのです。なので、下手をすればヲタがヲタの世界に引きこもるだけで終わりかねないのですが、「非ヲタとのコミュニケーションの難しさ」だとかを(ギャグですが)きっちり描いてきますし、まさに紗絵シナリオはヲタの世界に足を踏み込むかの瀬戸際の物語。
「堕落する準備はOK?」は今作を象徴する名ゼリフです。この作品は、既にエロゲーに手を出し世間的には充分なヲタである私たちに、「本当に外界と隔絶するのか?」とあえて問いかけます。そう、あえて私たちを一度振り向かせるのです。とにかくこの作品はヲタの肯定と否定を何度も何度も繰り返します。紗絵シナリオのエンドはまさにそうです。ムーナスの散々たる有り様の描写と、そこで働く可憐たちの生き様についての対象性。全シナリオを終えた時の印象と、おまけシナリオである「ぼくのたいせつなもの」の存在と意味を考えた時の対象性。この作品は潔いまでに、画一的な答えを出しません。意地が悪いんです(褒めてます)。
この作品には…やはり苦笑いするしかない…と私は思いました。この作品に何の疑問も抱かずに笑える人は…たぶん幸せですが、ちょっと不感症に陥りかけているのかもしれません。
もちろんテキストや演出は高度に練り込まれています。あの立ち画のデフォルメ化は凄くイイ!標準化してほしいとすら思うくらいです。あとはBGM。今作に素晴らしくマッチしたイイ曲が揃ってます。ま、「Star Boy,Ether girl」のボーカルエディットが本気で気に入った私が何を言っても説得力が無いですが(笑)。