第一位 『Forest』(ライアーソフト)

まずは[森]の描写が見事。下敷き(パクリともインスパイアとも言う)を使う作品は少なくないが、あそこまで深く広く使われると、それは最早並の使い方で太刀打ちできる代物ではない。特に、今作は「モデルが在ること」を作中で消化しているから尚更だ。この独特のグラフィックはまさにこの世界の為の描写であるし、音楽に関しては他の作品から一歩も二歩も抜きん出ている。
そして同時に、もう一つの舞台が[現代新宿]である点。これが何より強い。ありのままの世界とそこに生きるありのままの人間が描く物語であることで、この作品は他に類を見ない。
演出の妙は言うに及ばず。今作の音声的演出は、ライアー初のフルボイスであることの「覚悟」に他ならない。「夏至の夜の改賊」と「傘びらき丸航海記」は、「テキストを読むこと」と「テキストを読まないこと」の真逆の面からの演出であることに注目すべし。登場人物・背景から改行まであらゆる要素に「意味」が込められた今作は隙間無く濃密であり、まさに一瞬たりとも気が抜けない。
そして、それらが全て、「一つの物語」のために在る点。この作品の各要素は、「生徒・雨森と教師・灰流のための物語」へと収束する。一人の少女の「成長」を、ここまでドラマチックに、そして幻想的に描いた様は見事。端的に言えば、[森]とは、全て雨森の「夢」なのだ。その世界の描写の深さは、「そこを通って来たはずの私ですら、それ自体をすっかり忘れていたこと」を思い出させたくらい。この作品を描けるライターの技術・才能もさることながら、「感覚」、これを一番褒めたい。
とにかく「真面目な作品」だというのが、今の私の印象。この作品は隅から隅まで「茶化すことが出来ない」。だから微塵も気が抜けない。私は、解釈の難しさとかより何よりも、今作が人を選ぶのはこの部分だと思う。
今年、他の作品を語るのに(特に批判するのに)、何度この作品の名前を出しただろう。他のエロゲの一歩も二歩も先を行く作品である。もっとも、他の作品が同じ道をついて来るかは微妙なところだが。
そして最後に一つ。製作者自身が、こんな作品を紛れも無い「エロゲー」と言い切ってしまう点(DISK1の2トラックを参照)。彼らには変な驕りも無く、自分達の作品に自信と誇りを持っている。