あの頃、確かに世界は動いていた

最近この日記でも、「国」って言葉を使うとやたら反応が来ます。私はどっちかというとそんなのに囚われたくない方の人ですが、どうも最近の世間の趨勢はそうではないのかな、と。
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周囲には、嫌韓・嫌中的な意見が多いです。その理由としては、韓国・中国の反日感情が大半ではないかと思います。
で、反日感情って、最近になって高まってきたモノなのだろうか、と。
おそらくそうじゃありません。60年前の因縁が今更急に高まるはずがありません。結局私達はマスコミを通してしかニュースを得ていないわけで、そのマスコミに登場する頻度が増しただけ。
で、なんでマスコミに登場する頻度が増したか。それは、それ以前は「無視」できた韓国・中国に対し、近頃はそうはいかなくなったからじゃないでしょうか。
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私の記憶が正しければ、80年代後半から90年代半ばにかけて、日本人はアジアなど見向きもしなかったでのはないかと。問題となるのは欧米文化と日米貿易摩擦。日本列島という島に閉じ篭り、出て行くとしたら飛行機でアメリカ・欧州・オーストラリアまでひとっ飛び。
アジア?何それ?ダサいじゃん。そういう認識でしかありませんでした。むしろ、あまりに文化交流が蔑ろにされていたため、「アジアに目を向けろ」的な提言が声高に叫ばれていたような気がします。
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じゃあ今は。
結局のところ、バブル経済後の日本の国際的・相対的な地位の低下により、「アジアに飲み込まれた」のではないかと。
ホントに、バブル期はアジアなど敵ではありませんでした。安い粗悪品を作る地域としかみなされていなかったはず。しかし、韓国も中国も、今や、無視をして欧米だけを見て貿易していればよかった存在ではなくなっているのでは。下手をすると追い越されようとしています。また、欧米も、もはや日本を特別視していません。
つまり、昔は付き合う必要も無かったしどれだけ文句を言おうが無視していれば良かった相手と、否応なしに向き合わなければならなくなったわけだ。その結果、そいつらが当初から抱えていた不満をぶつけられることになった、と。そして、それを一方的にぶん投げるほどの経済的権力も、今や無くなってきているのでは。
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WBCで日本が優勝して「日本人でよかった」なんてトンマな意見*1が出る現在、ナショナリズムは私がこれまで経験した中で最も高まっているのではないでしょうか。
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しかし、同時に80年代後半から90年代初頭にかけては、国家の過ちと崩壊を見せ付けられた時期でもあるのです。
それまで、互いに核兵器を突き付け合っていた東西の大国。対極的なイデオロギーを持っていた両者の均衡は、片方の崩壊でようやく終焉を迎えます。共産主義は今の私達から見れば笑止な概念でしかないワケです。でもそれを、大真面目に世界の約半分が考えていたのです。
ソ連東西ドイツチェコスロバキア。国家の分割と統合を目の当たりにします。東欧の民主化により、倒される銅像。そしてユーゴスラビア内戦*2。こうしてようやく止まった「終末時計」。
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たぶん、今現在大学生の人とは、この辺の感覚共有が違うんじゃないでしょうか。僅か(?)5・6年の時代差…それをリアルに体験したかどうかの差があるような気がします。
「国家や民族は間違いをやらかす」。冷戦終結はそういう例をまざまざと見せ付けてくれました。「国が一つになる」と言われると、「本当にその一つは間違ってないんだろうな」と疑いたくなる感覚。それよりもむしろ、中はある程度バラバラで意見の相対化がされていた方がまだマシなんじゃないかと、私は考えるんです。
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もう一つ、80年代後半から90年代初頭は、政治不信の時代でもありました。
「政治に関心を持つ」ことがむしろ「格好悪い」と考えられていた時代。公務員になるなんて野暮。国のことなんて大マジで考えなくても、日本って国はなるようになっていたんです。それだけの経済的バックボーンがあったんです。
むしろ今の挙国一致的な雰囲気は、その必要に迫られてきたということなのかもしれません。

*1:日本代表が優勝したのは、出場選手が努力したから。全員が日本のプロ野球出身選手である以上、他の馴染みの無いチームより応援したくなるのはわかるし必然的だけど、別にその人が優勝に何か寄与したわけではないのだよ。「日本人」という同じカテゴリーに属した人が努力して出した結果を、ただ同じカテゴリーにいるだけで…努力もせずにあたかも自分の事のように結果だけを主観的に共感するというのは…私には何か気持ち悪く思える。もっと客観的に、「選手達頑張ったなあ」とか思うならわかるけど。

*2:個人的にこれは衝撃だった。欧州という文化的に高い(と思っていた)国家で、民族自決というラベリングの下に、市街戦だけではなく前時代的(と思っていた)虐殺が行なわれていったのだから。たった10年前の出来事。旧ユーゴは、分割後、とりあえずは平穏に関係を保っているようにも見える。サッカー選手なんかは同じクラブチームでプレーしてたりする。しかし、私にはそれが逆に怖い。裏を返せば、平穏な関係がふとしたきっかけで戦争状態に回帰するということだから。隣人同士であっても、殺し合うことがあるということだから。