「推定無罪」とは、「無罪かもしれない」じゃなく、「無罪と推定しなければならない」という意味

24日の参院本会議で、野党は先の衆議院選挙で自民党が「応援」した堀江貴文氏が逮捕されたことに触れ、自民党の責任を問うた。
…本気か?
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堀江社長は逮捕された。しかし、有罪判決を受けたわけではない。判決が下るまで、彼は「犯罪者」ではない。日本の逮捕者の有罪率から言って、彼が「犯罪者」と認定される確率は非常に高いのだけれども、国会議員たる者が、堀江社長が「犯罪を犯した」と断定するのはいかがなものか。
国会議員には不逮捕特権がある。しかし、不懲役特権・不禁固特権は存在しない。それは、判決が下り懲役・禁固刑が科された人は「犯罪者」と認定されているだからだ。逆に言えば、逮捕された者は、そうでないからこそ、こんな特権が条件付きで認められる。*1
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堀江社長は、まだ自らの罪を認めていない(たぶん)。そして、ここからが重要なのだが、例え彼が取り調べで「自白」しても、それは即座に有罪を意味しない。「自白しました」と発表するのは取り調べする側であって、勾留中の彼が、どのような拷問を受けているかもわからないからである。彼が明らかに自分の意志と認められる場で自分の犯罪を告白しているのなら、彼の「罪」は推定できよう。しかし、今の状況はそうではない。それを、国会議員が有罪を断定するというのはどういう了見か。国会議員の使命の一つは、自らの行動で、「権利」が守られるべきものだということを体現することではないのか。
殺人事件であっても無罪判決が下るケースは、無いわけではない。こんなケースだって在る。本当に彼が殺人を犯さなかったのであれば*2、なぜ、こんなコトになったのか。政治に関わる者に出来ることはあったのではないか?
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そもそも今回の野党の追及は的を外している。
今回の事件は衆院選よりも前だ。だから、もし自民党が、堀江社長が犯罪を犯していた(おそれがある)ことをわかっていたのであれば、選挙応援をする責任の遥か以前に、「告発しなかった」ことを問われるべきなのだ。なにせ、他でもない政府与党。政府与党が、犯罪(のおそれ)を知りながらそれを黙殺したとすれば、それは国を揺るがす大問題になるべきなのだ。それは権力者が絶対にやってはいけないことだから。
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逆に言えば、自民党は、堀江社長があの時点で「犯罪を犯した」(可能性がある)ことを認識していなかったと思われる。誰が、そんなリスキーな奴の選挙応援をするモノか*3
「過失」というのは、「予見可能性」と「結果回避可能性および義務」があって初めて成立する*4自民党には、あの時点で予見可能性が無い…あったら大変だし、有罪判決を受けてもいない堀江社長に「犯罪者だから」という理由で選挙応援を拒否するのであれば、政府与党は逆に道義的責任を問われるべきだろう。
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これからは噂の範疇の無責任な話題。
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もし、自民党に「悪意」があったとすれば、それは、強制捜査が「あの日早朝」に入ったことだろう。もし、政府与党である自民党が日にちをコントロールしていたのであれば、これは、選挙応援どころではない大問題だ。
あの日には、ヒューザー小嶋社長の証人喚問があった。
結果的に、ヒューザー問題は忘れ去られようとしている。私はあの日、雪のため飛行機が飛ばなくて、機内で、そしてロビーであの証人喚問をずっと見るハメになった*5のだが、あの中で小嶋社長は、政治家に仲介を依頼し、自民党の某幹事長秘書にアポを取ったことを証言している。その辺が広く報道されたかと言うと…甚だ疑問だ。これは、自民党にとっては、この日以上の日程は無かったと言えるのではないか。
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司法捜査は完全に中立的でなければならない。例え一日であっても、他者の意向で前後するということはあってはならない。政府与党に対しては、特にそうでなければならないはずだ。
なぜ、ライブドアからは、一回の強制捜査の後、こんなにもあっさりと続く嫌疑が出てくるのか。既にある程度の証拠固めをしており、踏み込むタイミングを窺っていた…と想像することは可能だ。それに、何者かの意志が介したかどうかは知らないけど。
ただ、万が一…誰かがそのためにライブドアをダシに使ったのであれば、その代償はあまりに大きかったと言えるのではないか。昨今の景気回復基調は、財界が、それがバブリーであることを悟りながら、はじけないように、その限りでちょっとずつ大きくしてきたモノだったのだから。
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この日、もう一つ大きなニュースがあった。宮崎勤被告の上告審で、彼の死刑が確定したことだ。
結果的に、社会的には、それを一面にしておけば「最も動揺が少なかった」かもしれないというのが、今の世情を示しているのかも。

*1:そもそも刑事訴訟法理上、「逮捕」=「勾留」では無い。それは「例外」で、正当な理由に基づき、裁判所の許可があって、初めて認められるモノだ。…現実的に逆転しているのだけど。

*2:「事実」なんぞ誰にも確信できないかもしれないが。

*3:もっとも、自民党側の調査不足…その「怪しさ」くらいは考慮して然るべきだったかも。でもそれは、自民党の支持獲得戦略上の失敗で、道義的責任じゃない。

*4:この辺、方法学的にスタンダードな言い方は忘れた(汗)。

*5:お恥ずかしい話だが、あの日ほど証人喚問を初めから最後まで見たのは初めてだった。で、見ているうちに…小嶋社長が可哀想になってなあ…。何せ、最初に宣誓させられて、嘘を付けばすぐに偽証罪になる。だから、発言内容によって有罪が推定されると、裁判でもそれに反する弁論が出来ない。そんな状況なのに、資料の持ち込みも、メモを取ることも許されない。補佐人がいるのだが、彼に相談できるのは「証言の拒否をするかどうか」についてだけ。しかも、「証言の拒否」には理由を添えなければならない。それも、ちょっと長引くと議員が野次を飛ばしてくる騒然とした雰囲気。しかも…アンフェアなのが、質問する議員は宣誓していないのだ。だから、議員は平気で決めつけてくる。「あなたは、こうしたんじゃないですか?」「私どもの手元にはテープがあり…お聞かせすることは出来ませんが、その中であなたはこう言っている」。その言い方は、小嶋社長には絶対に出来ないのに…。あの中、たった一人で喋れというのは、常人には無理。国権の最高機関たる国会だからまだ認められる余地はあるが、アレは警察の取り調べレベルでは絶対に許されない非人道的な世界だと思った次第。