(3)PCゲー内のデータが第三十条二の除外要件を満たさないとした場合の問題点

第三十条二の要件を満たさないとしても、第三十条2の補償金にて手当がされるのがあるべき姿である。しかし問題は、どのようにして補償金を徴収・分配するかにある。
CD−MD時代に関しては、この制度はある程度機能していたのではないか。MDへの編集はCDからの直接的な録音がほとんどで、音楽CD以外からの録音はほとんど見込まれていなかったはず。そして、その元となる音楽CDは、いわゆる売上高にほぼ比例するのではないか。
無論、外部音声の録音や自作音楽の録音の使用の場合、補償金を課されることに理由はない。しかし今までは、そのような著作権法の対象外となる需要は非常に低い割合に留まっていたと言える。ゼロではないため、問題が無いとは言えないが。
だが、MP3プレイヤーの普及は、一部のプレイヤーの使用状況を大きく変容させている。これには、MP3プレイヤーの構造が大きく関わっている。MP3プレイヤーがPCと直接接続を行い、音楽CDという媒体を通さないままMP3プレイヤーへ複製することが可能になったからである。
だが、ここに大きな問題を孕む。
これらゲーム会社は著作権法百四条の二および三に該当する団体に加入していないことが多い。ゲーム会社にとって基より音楽を提供することは一義的な目標ではなく、あくまでも彼らはPCゲーの一要素として音楽を製作しているに過ぎない。よって、音楽の私的録音補償金を求める団体の結成・加入そのものが彼らの本意ではない。特にゲーム会社には中小企業が大半を占め、団体結成および加入を補償の前提とすることは非常に困難である。
そもそも、音楽CDを発売しているわけではないゲーム会社団体と、音楽CDを専門に販売してる団体との間で、補償金に対する分配方法を決定するのは非常に困難である。先の「CD売上」という同じ軸の上に立てないのだから当然である。ゲーム会社の中にも、出した作品に必ずサントラを出したり、中には本編発売以前に音楽CDを発売する破廉恥なゲーム会社も存在するが、それはあくまでも特殊な例である。
今、どこかの分科会で著作権法については論議が行なわれているはずだが、現代の技術環境・特に著作物の電子化への対応を望む。例えば先の複製の定義上「有形的に」とあるが、これは観念的なものなのか言葉そのままの意味なのか。後者なら、そもそも電子データの複製に対応できないはずだ。
現状の形では、中小のゲーム会社へ補償金が入る可能性は非常に少ない。では、そのゲーム会社がPC上のデータをMDやCD−Rに複製した使用者を、補償金未払につき著作権法違反に問えるかというと、それは妥当ではない。皆さんご存知の通り、MDやCD−Rには私的録音録画補償金が既に含まれ、使用者はその支払を行なっているからである。にもかかわらず著作権者の基へ行かず第三者に支払われていることは大いに問題である。この辺はまあ、先の分科会に何とかしてもらいたいところである。
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ここでさらに論点を前段階へ戻すと、著作権法で認められた権利であったはずの私的複製権になぜ補償金という制約が課せられたのかという問題に行き着く。これは第三十条二の除外要件の存在についても同じことが言える。そもそも私的複製権は私的自治の原則を越える正当な権利として定められているはずで、それを制約するには、一定の法益侵害が存在することが前提となる。それはいったい何か。
それはむしろ、無制限の複製行為のもたらす著作物の流通数の減少を防止する政策的な目的ゆえだろう。例え価格を倍にすることで対抗しても、それは流通数の半減を意味し、商業としてはバランスを取ることが出来ても、文化の多様性という論点からは決してプラスにはならない。それゆえに、一定要件の下で複製を防止し対価の支払を求めることで、製作物の多様性を保とうとしたと考えられる。
しかし、現在は、非私的複製による著作物の流布という問題と混同されているのではないか。著作権法第三十条の規定はあくまでも私的使用による複製の規定であり、非私的複製による著作権の侵害は他の条項で防ぐべきではないか。私的複製はあくまでも著作物の正当な使用であり、そこに制限をすることは原則として認められない。
そして、PCゲーやMP3へのデータ使用は、本質的に私的使用による複製の域を出ることが少ない。複製が即座に著作権の侵害に繋がる使用だとみなすことはできない。
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この補償金制度も、MP3プレイヤーおよびPCゲーの普及した現代では意義を為さなくなりつつある。MP3プレイヤーは、音楽CDの大きさ・動作にわずらわしさを感じたユーザーの要望から生まれた新製品だ。よって、音楽CDを必要枚数購入することによる代替は絶対的不可能である。音楽CDの本来的販売メリットの確保という補償金の目的を達成し得ないのである。
そして同時に、補償金制度は、音楽CDの販売元に正当と推定される割合で還付されることによって初めて機能するが、著作権物の多様化がそれを困難にしている。その中で現行のMD・CD−Rのような一部記録媒介に対する補償金の徴収は妥当でない。なぜなら、複製者は私的録音録画補償金を対価として支払うことにより、現行法上の正当な複製権を得ていると考えられるからである。よって、現行制度で補償金を得ることが出来ない著作権者が複製者に対し補償金請求を行なうことはバランスを欠く。同時にそれは、第百四条の二にいう指定管理団体の不当利得を意味する。
補償金制度は、団体の結成を不可避とする以上、ある程度の寡占状態を前提とする制度であった。音楽CDについては歴史的にそうであったが、PCゲー製作会社については、そうではない。時代に合致しないシステムになりつつある。そうした中小の著作権者に正当な補償を与えるのが著作権法の本来の意義であるはずだ。