(2)PCゲー内データの著作権について

PCゲーのデータが、著作権法の対象であることに異論は無かろう。
しかし、データがそのままの形で内包されていることはまず無い。容量の問題がある以上、何らかの形で変換・圧縮されていることが大半である。ここで問題になるのは、以下の条文である。

著作権法第三十条
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 (省略)
二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

アーカイブ化されたPCゲーのデータはこの第三十条二に適合するかどうかである。通説は知らない(汗)。
まずは、この条文自体の是非を問いたい。なぜこの条文は、技術的保護手段の存在を要件とするのか。必要なのは、契約にかかる著作権者の意思ではないのか。この条文をそのまま適用すると、著作権者に複製禁止の意思があろうとも、そこに技術的保護手段が無い限り保護されないという事例が発生する。また、複製許可の意思があっても、それに技術的保護手段がなされていれば、形式上は複製を認められないことになる。
続いて、そのままで再生使用が出来ないPCゲーのデータは「技術的保護手段」に適合するのか。この条文には、著作権者の意思が要件として含まれていない。それゆえ、「製作者の意図の有無」を判断基準にできない。あくまでも外形的に判断すべき構成となっている。
音楽CDの場合、MDなりCD−Rへの複製方法は定型的であり、その定型から外れることが既に「技術的保護手段」の推定要件となりうる。しかし、PCゲーのデータは定型化されていない。拡張子を変更すればよいだけのものから、特定のコーデックを必要とするもの、CD−DAなど、複製にかかる技術的手段も異なる。いわゆるコピー&ペースト以外の何らかの手段が必要なデータの複製が必要なものは全て第三十条二に適合するのか。それは果たして、著作権者および使用者にとって有益な結末なのか。
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以下、PCデータ複製の問題となるケースを挙げてみる。
①音楽ファイルが何の作為もなく再生可能な場合(例『CANNONBALL』)
これは明らかに第三十条二の要件を満たさない。よって、個人使用である限り複製は可能という結論にならざるを得ない。これには、製作者の許可を必要としないし、もしこの製品の音楽再生を目的とするサウンドトラックが発売されている場合も同様である。
②音楽ファイルの再生に特定のコーデックが必要である場合(例『Forest』)
このコーデックは特製のものではなく、一般的に通用するものである以上、このコーデックの使用が保護手段の回避とは考えにくい。よって、単純な複製による再生は第三十条二の要件は満たさないのではないか。
③ファイル形式の変更が必要な場合。(例:『終末の過ごし方 DVD版』)
単純なコピー&ペーストでは複製しても再生は不可能である。しかし、拡張子を変更するという至極簡単な手段で再生が可能になる。これは一見すると「回避」という行為に該当するとも考えられる。しかしその場合、②とのバランスが問題になる。例えば②においてコーデックを入手し、そこからファイル形式の変更を伴う複製を行なう場合はどうか。MP3プレイヤーはその名前の通り、ファイル形式の変更を必然的に行なう必要がある。例えばコーデックを用いてwavで再生した『Forest』のBGMをMP3に変換することは既に認められていると言える。となると、ファイル形式の変換は、その用途に応じた複製の一手段、つまり第三十条二の「記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変」の一形態といえるのではないか。
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ここで、再度、問題が浮き彫りになったと思われる。「複製」の定義についてである。

第二条十五 複製:印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

著作権法にはコレしかない。私は如何せん通説を知らないのでどうしようもないのだが(爆)、少なくともCD−MD間のデータ移行を「複製」と定義している以上、著作権法が保護しようとしているのがいわば音楽という文化製作物そのものであり、そのデータの形態は問わないと考えるのが自然だ。
となると、保護すべきなのはwavであろうがmp3であろうが、「その曲」そのものなのだろう。これは著作権法の考え方にも合致する。とある曲に著作権があるとはいえ、その曲の電子データをバイナリエディタで開いた残骸を保護する必要性は乏しい(二次転用に用いる場合を除く)。
これがこのままPCゲーのデータにも適用されるか、である。例えば、作中の全BGMをアーカイブしたbgm.datというファイルを分解して単独の音楽ファイルとして複製することは、第三十条二の要件に適合するのだろうか。
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問題はやはり、第三十条二が製作者の意思を要件としていない点にあるだろう。PCゲーのアーカイブ化の最大の目的が容量の圧縮であると考えられる以上、それをもって技術的保護手段と外形判断するのは困難である。それを技術的保護手段とみなすことは、複製を容認する意思を持つゲーム会社の活動を阻害する。繰り返すがこの条文に意思は必要ないからである。
「製作者の意思をもって技術的保護手段とみなす」という論拠も考えられるが、そもそも著作権法は製作者の意思による私的複製の禁止を認めていない。私的使用のための複製権は著作物の文化的使用のために広く認められるべき価値のある権利である。さらに、まさにMP3プレイヤーのような、複製しなければ使用できない機器が登場した以上、複製禁止の意思を広義に認めることは妥当ではない。また、複製禁止の意思がありながら第三十条二の除外要件に該当するとしても、著作権者は第三十条2の補償金の規定によって補償されるべきである。
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よって、PCゲー上のデータのアーカイブ解除は著作権法第三十条二の適用除外要件にはあたらないと判断するのが妥当ではないか。
法令解釈上の問題に加え、アーカイブを技術的保護手段としてPCゲーの複製禁止要件とみなすことは、業界にプログラミング上の作業工程の増を招くおそれがあり経済的でない。

第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

この著作権法の目的に則り、著作権者と使用者の権利の相互調整を図る以上、どんなエロゲのパッケージ裏にも書いてある複製禁止等の項目は私的自治の原則を越えて無効なのではないか(もちろん、私的使用の限りで)。