グラフィック論

エロゲの中で、最も大きな要素であるはずの「グラフィック」。もっとも私の場合、実はこの要素はあまり比重が高くない。私は自分で延々とレビューを書いてかないと作品を消化できない人で、レビューを書くためにPCに向かい合っている時はゲームを起動しているワケじゃないから「グラフィックを見ていない」。そんなワケで、そんなに拒否反応を示すモノでなければ、意外とどんな感じでも大丈夫だったりするし、グラフィックがイイからベタ褒めするということも、あまりない。
 :
で、レビューを書く時に大事(だと思う)のは、「グラフィックを簡単に批判するのは反則」ということだ。
だって、グラフィックの出来・不出来なんてのは、大抵、買う前にわかるから。「絵が好みじゃない」ってのは、メーカーのHPを見ればすぐにわかるはず。「枚数が足りない」とか「視覚演出が弱い」ってのはさておき、塗りなんかを否定するのは予習不足(?)としか思えない。
逆に、その絵が好みである時も同様で、もちろん枚数や視覚演出はその限りではないけれど、塗りの好みなんかは、ハナからそれに期待して買ったりする。大抵の場合、グラフィックの期待値は評価値とほぼ等しくなるはずなのだ。
 :
これは、読んでみないと最終的な判断を下せないシナリオとは決定的に異なる。シナリオ評価の場合は、「個人の感想」という歪みに歪んだフィルター(笑)を通したモノからスタートするから、自分の持っているフィルターの構造から逆算して予想したシナリオの姿は、結果的に想像と全然異なるモノがそこに在ったりする。
しかしグラフィックの場合、他人の評価のフィルターを通る前の、本当にその人が見ていたモノそのものを、まずOHPなんかで眼にすることができる。すごい単純。だから、グラフィックで「外す」なんてことは、基本的に「在り得ない」のだ。
 : 
逆に、グラフィックの辛いところは、その「良さ」も、プレイ前に大方想像が付いてしまうところにある。グラフィックで想像の上を行くのは非常に困難。この「驚き」という点では、シナリオに絶対に勝てない。
そして、初めからその「グラフィックの良さ」に期待した作品、つまり、それだけグラフィックの高い評価をする作品に、そのグラフィック期待値≒評価値に見合うだけのシナリオが付いている…とは限らないのだ。
グラフィックが素晴らしければ素晴らしいほど、シナリオは足を引っ張る。グラフィックは初めから期待値≒評価値がマックスに近いから、それに匹敵するようなマックスに近い地点のシナリオが添付されている「確率」の「低さ」は、確実にそのエロゲ全体の期待値を侵食する。結果として、グラフィックの素晴らしい作品に対する「期待値」がその作品全体の「確定評価値」を上回る「確率」は、単なる「素晴らしいシナリオに出逢える確率」とほぼイコールに落ち着いてしまう。そして、無作為に選ぶ場合、その確率は、実は相当に低い。
 :
グラフィックは超即効性で、シナリオは遅効性なのだ。グラフィックは作品プレイ前から効力を発揮するが、シナリオはプレイを終えてから効果が現れる。このタイムラグが問題になる。
どちらにも同じ点数が付くのなら、作品の評価点はどの時点でも常に変わらない。でも、両者に低高があると、どうなるか。グラフィックが高評価点で、シナリオが平均点以下の場合、その作品の総合評価点ないし期待値が最も高いのはプレイ前になる。グラフィックが高評価点で、シナリオがそこそこの出来にあっても、シナリオの期待値が元から高ければ、やっぱり同じ結果になりがちである。
では、グラフィック・シナリオ共に高評価だったら?プレイ前から、期待値は高い。しかし、更に実評価点は上がってゆく。でも、何の要素ゆえに上がっていくかというと、それは「シナリオ」の評価点の分が上がっているのだ。だから、その作品の高評価の理由は何かと問われると、「シナリオ」という答えになりがちである。
グラフィックの高評価はベースとしてその作品に寄与している。だが、私の場合、印象として地味なのだ。それはどの段階でも等値だから。それが目立つのは、その伸びしろ(=シナリオ評価点)が鈍化してグラフィック要素の比重の高さに気付くか、あるいは逆に段々と削られていってベース(グラフィック評価点)がむき出しになった時でしかない。つまり私の場合、シナリオのマズい作品でないと、グラフィックに目が行かない。
グラフィックに初めから?が付く作品は、もちろん初めから手を出さない(笑)。私にとってグラフィックとは、そんな、「良くて当たり前」「ダメなら最初から無視される」という、悲しい運命を持つ要素なのです…。
 :

コンプに一日。理解に三ヶ月。納得に半年。絶賛に一年。

これは私の中の現・最高傑作『Forest』との付き合い方。こんな人が、プレイする前から効力を発する超即効性を持つグラフィック要素を重視するのはどうしても難しいんですよ。
もちろん、最近は視覚演出とかがだいぶ重視されるようになってきているので、必ずしもグラフィック的初見がグラフィック評価点に繋がらない作品も増えてます。今後もそこには期待したいです。
 :
PS『パペットプリンセス』これからプレイします。