人権擁護法案はエロゲオタを保護できるか!?

なんだか、人権擁護法案に対する反対論が在るようだ。それはエロゲ板のごく一部にも。
まず最初に、大マジで言わせて貰えば、エロゲごときで人権どうこうを語ろうとするなというコト(笑)。だって、コイツらの本音は「今までのようにエロゲがしたい」なんだから。それは気持ちとしては大いにわかるけど、もっと大切なモノがあるだろう?
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とりあえず、人権擁護法案を読んでみた。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15405056.htm
斜め読みだが、感想。「これのどこがエロゲーマーにとって危険なの?」
この法案が禁止しているのはこれだけである。

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
 一 次に掲げる不当な差別的取扱い
  イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
  ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
  ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)
 二 次に掲げる不当な差別的言動等
  イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動
  ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動
 三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待
2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
 一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為
 二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

この条文には行為主体の制限が多いことに気付くだろう。
まず第三条一、これは「立場」を要求している。公務員という公的な性格の「立場」・商売上の「立場」・職務上の「立場」といった上下関係が無ければ、そもそも対象にならないのである。
第三条二ではその上下関係の要素が弱くなるが、その分、人権侵害とされる行為はより具体化されている。しかし、第三条三では、再び「優越的な立場」という汎用な主体を対象にし、「虐待」という被害者に影響の強い行為を対象としている。
一方、第三条2以降では、「不特定多数」に対する行為についての規定である。「不特定多数」相手では一人一人の被害は小さくても総被害が拡大するから、全項よりも広い範囲で「人権侵害」を定義している。
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さて…エロゲーで考えてみるのだが(笑)、いったいどこに当てはまるというのだろうか?
エロゲーは現に18禁という自主規制下にあり、「公然」なんてしていない。基本的に作品を購入してインストールしなければエロゲーの中身に触れることはできないわけで、この中で表現されるモノが「不特定多数」を相手にしていると考えることは極めて困難であり、第三条2は適用にならないだろう。
となると…第三条1であるが、これは完全に当てはまらない。一・三は「上下関係」が無いからダメ。二は「特定の者」を相手にしていないからダメ。
つまり、どれも適用にならない。どれだけエロゲーの中でヒロインを陵辱しても、それはこの法律で言うところの「人権侵害」には当てはまらないのではないか?
この項目に当てはまらない次項は、第三節の「特別救済手続」の対象にならない。つまり、実効力を何ら持たないのである。
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私がこの法案を斜め読みした印象としては「ホントにこの程度で足りるの?」と感じたくらいのソフトさだった。確かに第三節第一款四以降のマスコミに対する項目だけには執念を感じるが(笑)。
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そもそも、第二条(定義)に、こうある。

第二条 この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。
2 この法律において「社会的身分」とは、出生により決定される社会的な地位をいう。
3 この法律において「障害」とは、長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける程度の身体障害、知的障害又は精神障害をいう。
4 この法律において「疾病」とは、その発症により長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける状態となる感染症その他の疾患をいう。
5 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。

5の最後に「性的指向」との文言があり、一見するとロリもペドも足フェチも胸フェチもSもMもフェラスキーもアナル好きもマザコンショタコンネクロフィリアも全てOKなのかと思われるが、性的指向」とは精神医学的に「同性を愛するか異性を愛するか」の意味、つまりレズ&ホモの意味しか持っていないとのことなので(その他は「性的嗜好」と区別するらしい)、ちょっと残念(笑)。
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となると、ここで言われている人権の範囲は相当に限定的である。法律にしては珍しく、5項で具体的に上げられている項目に「等」は付いていないのだから。
となると、この5項の項目の中で最もあいまいな表現「信条」これこそが、判断の分かれ目になるだろう。基本的に法学上はこの言葉を「宗教的信仰にかぎらず広く思想上・政治上の主義を含むもの」というようなかなり固い信念に定義しており、単なる嗜好が対象となるかは難しいところである。
つまり、この法律の濫用はあまり警戒しなくてもいいんじゃないかと思うのだ。もちろん、第3条に当てはまる条件で第2条内容の差別発言をすれば対象になるが、それは、普通に人としてやってはいけないことだと思うのだが、どうだろうか?
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もし、第2条が拡大解釈されるのなら、私達エロゲオタにとって、そんなに喜ばしいことはない。
だって、「エロゲオタ」ってコトに対する差別も禁止されるのだから。
「エロゲオタはキモい」って2chに書き込んだら特別救済手続。
「お前はエロゲオタだから駄目だ」って面と向かって言われたら特別救済手続。
スバラシイとは思いませんか(笑)?
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結局、「権利」とは「法律」でしかないし、民主主義国家において「法律」とは、「民意」でしかない。この第二条に「性的指向」が加えられたのは、世の中のレズやホモが、自分達の性癖を「権利」として認めるよう主張を繰り返し、それが国際的にも世の中に認められたからなのだ。…少なくとも、そういうことになっている。
そう、私達エロゲオタは、その趣味を世の中が否定できなくなるまで、啓蒙活動を続けるべきなのだ(笑)。
現に「性的指向」が加えられた以上、「性的嗜好」との差を考えると微妙である。実際、精神医学の分野でも、「性的指向」と「性的嗜好」の区別は無意味だとする説が徐々に有力になっているという。そりゃあ、エロゲーの中で『サフィズムの舷窓』だけは特別なのかというと、そういうことはないだろうから。
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法学界での圧倒的通説に、「内心の自由」は絶対に誰にも侵されない不可侵の自由…ということがある。もちろんそれが保障されるのは「思うだけ」であって、ひとたび口に出せば状況は変わってくるんだけど。つうかそれは、侵す方が難しい…。
とはいえ、そんなことは、この法律でどうこう言うずっと以前のレベルの、「当たり前」の話なのである。そして、口に出したりどこかに書いたりする以上、それが他人の何かを侵害する可能性があり、それが無条件に許されるモノでないことは、本当に「当たり前」のコトに過ぎないだろう。とはいえ、刑法には「罪刑法定主義」という大原則があり、法律で規定されないことによって刑罰を科せられることはないというのは当然の所業なのである。
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その限りで、ロリもペドも足フェチも胸フェチもSもMもフェラスキーもアナル好きもマザコンショタコンネクロフィリアも、レズもホモも、ノーマルな人も、全て同等なのだ。
それを、この「人権擁護法案」で具体的に救済手続を定めるほどに保障すべきかというのは、また別の価値感の問題であり、それを決めるのは、国会議員ではなく、世論であり、つまりは私達である。
「人権の定義があいまい」というのは、実際に「どんな権利が保護に値するか」が社会的に確立されていないことの裏返しでしかない。結局、そこの議論が煮詰まらない限り、立法などできるはずがないのだから。日本という国は、まだまだその程度には民主的だと思う。
とはいえ、価値観の乱立するマニアとオタの時代には、それそのものが不可能だとも言えるのだが…。