『らくえん』という作品について・仮説

(後記)
この日の日記はほとんどそのままレビューに載せました。
そして同時に、「超名作」→「殿堂入り」へランクアップです!
http://www.geocities.jp/judge13th/o18/rakuen.html
(以下本文)
2chの2004年ベストエロゲ投票が終了。
ボランティアによる集計人有志によると結果はこちら。
http://ryui.cool.ne.jp/2004best/
http://bpword.hp.infoseek.co.jp/besteroge2004/
やはり目を惹くのは、『らくえん〜あいかわらずのぼく。の場合〜』の高得点である。
まあ、2chの葱板という「比較できるだけ数多くのエロゲに触れているプレイヤ」の集う場での投票であり、2chネタが相当数含まれることからも「葱板住民と最も価値観を共有できるゲーム」であることに疑いは無い。
だがそれにしても、「加点平均では全作品中No1」だというのには驚きだ。売れたという話は全然聞かないし、ヲチスレには改めて「『らくえん』ってどんなゲーム?」という声が多い。
とにかくこの作品の異様な所は、「やる前は全然面白そうに見えない」点。コレは私がそうだったからなのだが、最初に作品紹介を見た時は面白そうな作品だとはとても思えなかった(爆)。以下、まずはOHPトップの作品紹介。もう見れないので(涙)コピペする。

カノジョ不在18年目の冬。
ちょっとだけ仲がよかった後輩の女の子に、彼氏がいるって知った。
別に好きだったわけじゃない。
なのに、なぜか胸の奥がもやもやしてる。
そして、受験失敗。
おめでとう、予備校合格(誰でも合格できる)。
桜が咲いたことなんか一度もない僕の人生。
それでもけっこう日々は楽し。
あの日までは。あの電話がかかってくるまでは。
あのとき、受話器をとらなければ。
僕はフツーでのんきな日々を過ごせたんだろう。
 :
2002年3月1日発売後、口コミ、ネット等々、一部でミョ〜に大評判だったTerraLunarブランド第1作『しすたぁエンジェル』のスタッフが、満を持してさりげなく贈る、超絶対御都合主義的等身大であいかわらずな僕らの青春友情恋愛おばかさん集団シチュエーション*ラブコメらくえん〜あいかわらずなぼく。の場合〜』6月25日に発売です!

一言も、「エロゲ製作」という言葉は出てこない。加えて、以下、各ヒロイン紹介。

  • 僕の母校の後輩・千倉紗絵(ちくら・さえ)

文芸部所属図書委員兼任叫ばない詩人系少女。
通ぶった芸術論戦わせたり、いっしょに映画(マイナーな名作ばかりだ)に行ったりと、それなりに仲よしの学生時代。
「僕」は千倉に好かれている、と思い込んでいた。
うっかり同人誌用の原稿(リリカルでちょっとだけエッチなヤツだ)を見られてから、どこか気まずいふたりの関係。
受験を控えたクリスマス。
“冬のイベント”へ向かう「僕」は、恋人と街を歩く千倉の姿を目撃する。
あれから1年。浪人生と現役受験生。
名門・佐々木予備校でふたりは再会する。
でもそれは、恋の始まりなんかじゃなかった。

  • 僕のバイト先の先輩・美柴可憐(みしば・かれん)

受験生はお金がかかる。予備校、テキスト、模試、受験。
メシ代だってタダではないし、勉強ばかりじゃ効率も悪い。
でもさすがにスネッかじりの「僕」だって、親に甘える限度がある。。
バイト先でであった先輩は、ちっちゃくて子供みたいで、うるさくて怒りっぽくて、いっつもイライラしてて、世の中をバカにしたような顔で高飛車だった。
ちっちゃいくせに命令口調で、ちっちゃいくせにいばってて、ちっちゃいくせにわがままだった。
「僕」はすぐに、可憐のパシリに任命される。
受験生なのに、勉強するヒマなんかありゃしない。

  • 僕の理解者・御守みか(みかみ・みか)

いまはこんなにサエナイ「僕」にも、人には言えない夢がある。
いつか、きっと。
御守みかは「僕」の理想で、目標で、そんな僕を理解してやさしく応援してくれる唯一の女性。
こんな姉きがいたらどんなに癒されるだろう。
でも、ときどき不安になる。
このひと、僕の話をきいてないんじゃないかって。
それどころか、なんにも考えてないんじゃないのかって。
そう、「僕たち」が出会った有明のあの会場でも、御守は誰の話も聞いてなかったんだ。
僕を励ましてくれたあの言葉には、なんにも意味なんてなかったんだ。

  • 僕の妹/ナマイキな方・亜季(あき)

妹萌え」? はっはっはー。バカいっちゃいけない。
妹なんてロクなもんじゃない。
生意気だしだらしないし恥じらいとかぜんぜんないし、暴力的だしけっこう器用だし、勉強なんかしないくせに成績はいいし、料理は食べるの専門だし片付けなんかしないし部屋なんか散らかし放題だし、都合のいいときだけ甘えるし、虫アツカイするし、無視するし、外面ばかりいいし、そのくせ男にはそれなりにもててるみたいだし。
亜季は、僕の「ナマイキな方」の妹だ。
いつも僕を馬鹿にして、説教して、引っ張りまわすワガママなヤツ。
プライベートなんか考えず、いつも勝手に僕の部屋でごろごろしてた。
だから。東京で一人暮らしをはじめたとき、正直ほっとした。
やっとできた自由な時間。
そりゃ、受験勉強しなきゃいけないから、自由、ってわけでもないけど。
口うるさい妹が部屋にいないこの開放感!
ビバ・東京生活! ビバ・浪人ライフ!
でもね、わかってたんだ。亜季が僕をほっとくわけないって。
だってこいつは、僕にとりついた悪魔みたいなヤツなんだ。

  • 僕の妹/僕の妹/ナマイキじゃない方・杏(あん)

妹萌え」? はっはーん、なるほどなるほど。
そういう気持ちになるのもわからなくない。
おとなしくて気が弱くてもじもじしてて、
家庭的だしけっこう不器用だしときどき宿題聞きにきたりするし、料理はうまいし片付けもちゃんとするしきれい好きで掃除好きだし、けなげに一人でがんばろうとするし、ときどき甘えてくるし、人見知りだし、そのくせ男にはそれなりにもててるみたいなんだよなぁ。
杏は、僕の「ナマイキじゃない方」の妹だ。 いつも僕にくっついてて、世話してくれたり、引っ張りまわされたりするカワイイヤツ。だから、東京で一人暮らしをはじめたとき、正直不安だった。
変な男に引っかかってないか。悪い男にだまされたりしてないかって。
世間知らずの妹が目の届くところにいないこの不安感!
妹よ! ああ、妹よ! 妹よ! でもね、わかってたんだ。杏が僕をほっとくわけないって。
だってこいつは、天使の笑顔で僕にくっついた金魚のフンみたいなヤツなんだ。

つうかこれ、紗絵のところは「嘘」だよなあ…。
そして最後、「ストーリー」の項目。

主人公=「僕」は、どこにでもいるフツーの予備校生。
どのくらいフツーかって?
ルックスC、成績オール3(5段階で)、草野球ならレフトで6番。
青春真っさかりなのに恋人はいないし、もちろん童貞。
年に2回開催される有明ビッグイベントに欠かさず行くってくらいフツーだ。
……まあ、一般的には、少しだけダメな人かもしれないけれど。
さて、そんな主人公=「僕」は最近ついてない。
自分に好意をもってると思い込んでた後輩の女の子には彼氏がいたし、
それなりにがんばったつもりの受験は全部すべてまるっとさっぱりサクラチル。
さすがの「僕」も考える。
受験に失敗したのは成績がフツーにアレなせいだ。
成績がアレなのはフツーに勉強してないからだ。
勉強してないのはうっかり同人誌作っちゃったり集めちゃったりで忙しいからだ。
……そりゃあ、ダメだろう。
ナマイキな方の妹も、ため息つきながら言ってた。
「おにいちゃんはヲタクだからダメなんだよ」
自分じゃそんなにヲタクのつもりはなかったけれど。(←自覚が足りません)
そうか! ヲタクはダメなのか!(←曲解ですが、そんなには間違ってはいません)
脱・ヲタクライフ! ウエルカム・ノーマルライフ!
さようなら昨日までのサエナイ僕。
よろしく今日からの素敵な僕。
心を入れ替え予備校へ。
まさに家を出ようとしたその瞬間。
ぷるるるるー。ぷるるるるー。
僕の運命を変える1本の電話が鳴り響く。
ナマイキじゃない方の妹がため息つきながら言ってたっけ。
「おにいちゃんはヲタクなんだから、しょうがないよ」
そして、いつしか僕たちは。
運命に導かれる勇者たちのように、「ムーナス」に集う。
そこはいわば僕たちにとって心やすらぐある意味楽園。
ある意味、ね。
天使も魔女もロボットも魔法も異常気象も水没都市も奇跡もない僕らのありふれた日常が、ハッピーな物語に変わっていく。
さあ、みんな。堕落する準備はOK?
僕らの日常がすごい勢いで落ちていく!

ほら、最後まで「エロゲ製作」という言葉は出てこない。最後のストーリー紹介など、むしろ逆の方向性へ向かうようにさえ見える。なんでこんなことをしたのか?はっきり言って、この文章をそのまま読むとトンデモなくつまらなそうに見える。こんなことをしたら、売れないに決まっているのに!?
そしておそらくはこの作品、今のところは全然売れてない(涙)。実際、ブランドであるテラルナは年明けに閉鎖を宣言している(OHP参照http://www.terralunar.com/)。そして、『らくえん』の製作チームである「月面基地前」にテラルナは引き継がれるという。他でもない『らくえん』作中のエロゲメーカーが「ムーナス(Moonearth)」という名前なのを思い返せば…。
これがこの投票の後であれば(つまり、高い評判が確定した時期ならば)、それ自体が、「結果を残したブランドへの少数精鋭化」という戦略的な意味だとか、「自虐的なネタを次々と披露したこの作品にとって最後となる、"身体を張ったギャグ"」と見ることも出来なくもないのだが(笑)、時期的に(1/5頃だったはず)投票とは全くの無関係の閉鎖だ。
実は、テラルナOHPは『らくえん』発売後、パッチの配布を除いて全く更新されていなかった。スタッフによる一つのコメントも、無い。でも、今もなお月面基地前は生きているのであり、開発をしていないわけではなかっただろうから、少なくともその新作の情報を流すのは自然な流れである。でも、それすらも行わなかった理由は何か?
そこから、邪推をしてみる。
テラルナというブランドは、"いつ消滅したのか"?」。
この『らくえん』は昨年6/25の発売だが、「その時点でまだテラルナは存在していたのだろうか?」
可憐エンドで、「権利は引き継がせてもらった」という一節がある。そして、可憐エンドの結末を思い出せば…うわあ。
私は先のレビュー(http://www.geocities.jp/judge13th/o18/rakuen.html)で、可憐エンドを「展開が飛躍する」と書いた。だけど、もしかして、このエンドもまた「彼らの実感」だったのではなかろうか?金を用意したのは誰だ?借金を抱えたのは誰だ?ムーナスに再結集したファッキンバカヤローは誰だ?
そう考えると、彼らがなぜこの作品に対し、「売れないような紹介をしたのか」の理由も考えつく。既に親会社が消滅していた彼らには、「売り上げに応じた歩合制成功報酬が無い」のではないか。ムーナスでの労働条件に、一度もそういうくだりが出てこないことを思い返して欲しい。売り上げが彼らにとって興味の対象ではないとしたら?
とはいえ、わざわざ売れないように紹介する必要自体があるのだろうか?…これこそ邪推だが、彼らは「不特定多数に売れるのを嫌った」のではないか。
これだけ2chネタを繰り広げておきながら、2chをして、

「ヤワなハートじゃ、ユーザーの本音を見るのはこたえるゼ?」
「褒められても貶されても無視されても、けっこうこたえるからねー」

と、他でもない美柴可憐に言わせるのだ、彼らは。
(「褒められても」というのは非常に興味深い。エロゲには様々な面からの様々な評価があることを踏まえれば、それを見る、その作品に込められた唯一無二の意図を知る製作者の心情とは如何なるモノなのだろうか?)
この作品は、近年稀に見る、「口コミで広まったエロゲ」だと思う。そして、この作品に対して「口コミ」の範囲内にいるのは、間違いなくディープなエロゲーマーである(笑)。ディープなエロゲーマーでないと、この作品は理解できないし、共感もされない。彼らがそれをわかって上記の作品紹介をしたのだとすれば、それは見事に成功したと私は言いたい。そしてそれは、「売れなくてよい」作品であるからこそ、可能となったのであろう。
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この『らくえん』というのは真実と嘘の境目のわかりにくい作品である。なので繰り返し言うが、こういう私の解釈自体がテラルナ月面基地前の狙いに見事にハマっているのかもしれないし、そもそも全然的外れなのかもしれない(笑)。
だけれども、もしこの私の想像に当たっている部分があるとしたら…彼らは一つの見込み違いをしていたことになる。それは、彼らの言うこの「痛くて」「ビミョー」なエロゲーが、これだけ私達エロゲプレイヤーの魂を揺さぶったということだ。