894さんへ

ラスコーリニコフ(『罪と罰』)って、けっこうヘタレな奴だ。
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ナポレオンになれると信じていた男。自分に対する確固たる自信と他者に対する圧倒的優越感を持っていたはずの男。なのに、老婆を撲殺した後は「罰」に恐れるしかなかった男。最後まで「罪の意識」を持たなかった男。ネヴ河の淵に立ちながら、結局、自宅に戻るしかなかった男。「だがドゥーニャ、お前は、僕が単に水を恐れたのだとは思わないかい?」。ソーニャに対する偏屈な態度。彼を気遣おうとするソーニャに対する嫌悪感。「俺にはあの女の涙が入用だったのだ。あの女の驚きが見たかったのだ。あの女の心の悩み苦しむのが見たかったのだ!」 スヴィドゥリガイロフの自殺を聞いた時の衝撃。呆然としたまま警察署を出て、そこでソーニャの悲痛な表情を見た時、彼は、にたりと笑って、引き返していく。
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これを読んだ大学2年の秋、私は私の限界を知ったよ。