レビューサイトをレビューする①殿堂入り作品群

殿堂入りは『腐り姫』『こなたよりかなたまで』『Forest』『らくえん』の四作品。殿堂入り作品は本当に語りだせば長いが、とりあえず、これらの「地位」について語ってみたい。
今はこの順序としているが、その差は何に重点を置くかと他作品との相互関係でいくらでも前後できる。だが、他の作品との格差は極めて大きいことも事実。また、この順序は筆者のプレイ順に比例していることに注目。
そして、この四作品のうち、一つだけ観点の違う作品があると思う。それは他でもない『腐り姫』。他の三作品の何に価値を見い出しているかを考えれば話は早い。
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『こなたよりかなたまで』レビュー
筆者は『こなかな』に「どう死ぬか」を見た。筆者はこの作品で描かれた「死」をいつか自分に訪れるモノと捉えており、だからこそ最後までハッピーエンドを描ききれない佐倉エンドの終わり方を評している。だって、現実はそんなに簡単にはいかないのだから。一方、もう一つの頂点であるクリストゥルーエンドにはより「物語性」を見ているのだが、それが真逆であり同質であることはまさに「他人のために生きるということはどういうことか」という問いかけであり、得てして自己犠牲に価値を見い出しがちなところのあった筆者にとっては大きな衝撃だったのだ。そして人生唯一のSSまで書いてしまい、改めてこの二つのエンドの究極が同一であることを思い知ったのである。
『Forest』レビュー
もしかしたら、純粋な意味では『Forest』こそが最高の作品なのかもしれない。テキストの表現力、視覚的・聴覚的な演出力は他の全ての作品を圧倒している。そしてこの作品の凄いところは、決して空想に逃げず、一人の少女の「人生」に全てを帰結させたところにある。この作品から全ての修飾を取り払った結果残るのは何か?筆者は、あのラストシーンを見た。一人の人間が、夢を見て、他人と交わり、挫折し、そして歩き出すまでの過程こそがこの作品の「テーマ」であり、それは人間にとってあまりに本質的なモノなのだ。むしろ逆に、このあまりに現実的な描写の背景として、幼年期と「夢」の象徴として描いたモノが[森]である。その描写自体も素晴らしいのだが、最終的にそれが全て「現実」に回帰するところが、この作品が他を超越する所以なのだ。…逆に、このあまりの超越性こそが、この作品をNo.1に推せない理由そのものでもあるのだが。
『らくえん』レビュー
最後、『らくえん』。この作品には、まず大いに笑わせてもらった。その過程で筆者は見事にヲタに染まったことを自覚させられたワケなのだが。しかし、読み進めてゆくにつれ、「ヲタがヲタであること」をこの作品は何度も問い掛ける。この作品は、「ヲタの世界を肯定し、そして否定する」。それはまさに、この世界にどっぷり染まった製作者だからこその圧倒的な自虐的現実感なのだ。もちろん声優陣やライターの技量は素晴らしく、特に亜季シナリオでは素晴らしい物語を見せてくれた。だがこの作品の最後のトドメは、みか&可憐シナリオ。テラルナ死亡という本当の現実と相まって、どこまでが本当でどこまでが嘘かわからないこの作品の「境目」はさらに曖昧になってゆく。そしてその分だけ、この作品の「本気度」も読めなくなってくる。ただ筆者は確信している。「かなりの部分は真剣(マジ)だぞ」と。
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以上三作品に共通することは何か?「真面目さ」と「現実感」、この二つだと思うのだ。この筆者は「テーマ性」をやたら気にするからこそ、「テーマを半ば放棄する形の予定調和的ハッピーエンド」を好まない。筆者はすでにいい歳で社会人として働いており、そもそも「テーマ性」という言葉自体、「現実」に即する形でなければ最早受け入れられないようだ。
近頃、評判の上がらなかった作品のレビューを見れば一目瞭然で、この筆者は「考察不足」「作り手の妥協」を感じた作品にキビしい。もちろん上記三作品にそれが皆無だとは言わないが、それを感じる隙間も無いほどの作り込みがなければ殿堂入りは果たせないらしい。
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だが、『腐り姫』という作品になると、ちょっと話は違ってくる。
『腐り姫』レビュー
この作品は徹底した「物語」である。もちろんこの作品は確かに真面目に作られているが、この作品には「現実的テーマ性」の要素が弱い。
皆さんご存知の通り、この作品の中心は簸川樹里だ。だがこの筆者は、他のレビューを見ればわかるように、別に強い妹属性を持つワケではないし、そもそも恋愛ネタをあまり重視しない傾向にある。上記三作品には、見事なまでに「恋愛要素」が抜け落ちているのがわかるだろう。
この筆者の場合なにせレビューがやったら長く、書いている途中で段々とその作品の「味」がわかってくることが多い。言わば、「感性」よりも「理性」を重視するタイプなのだ。しかし、そう、『腐り姫』という作品は、「現実的テーマ性」を重んじるどちらかと言えば頭でっかちの方のこの筆者に、まさに「感性」で衝撃を与えたのだ。その後のエロゲの数をこなし数多くの萌えやエロを目にしてきたが、ついにここまで感性的な印象を受けた作品は他に無い。そしてその結果から逆算して、この作品の演出力の巧みさに感心させられたのである。私はこの作品の素晴らしさを「言葉にする」までに、軽く一年以上かかっている。
もう一つ、この作品をNo.1に推す最大の理由は、「エロいこと」。確かに『らくえん』はエロゲ界の描写だし『Forest』はエロゲじゃなきゃ作れないだろうけど、本当の意味で「エロゲー」であるからこそ価値が高いというところが、『腐り姫』が頂点たる理由である。
もちろん、様々な面で『腐り姫』のプレイ順が5作目という圧倒的初期段階であることも一つの要因ではあるだろうけれども。
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いずれにせよ、筆者の上げる殿堂入り作品は、そのレビューの圧倒的な長文から見てもわかるように、まったくもって一筋縄ではいかない素晴らしい作品だと考えられている。これに並ぶのはもちろん容易なことではないが、そこに新たな作品が加わる時は、また新しいエロゲ観に出会った瞬間であろうことは、疑いがないだろう。